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HILICモード使用上の注意点

HILICモードは、とりわけ極性化合物の分析に対し有効な分離方法ですが、難しいモードでもあります。HILICモードにおける一般的なトラブルを避けるためには、いくつかの重要な注意事項があります。ここでは、HILICモードとそのよくあるトラブルについて紹介します。

”HILIC"はHydrophilic Interaction Liquid Chromatography(親水性相互作用クロマトグラフィー)の略です。HILICはRaptor HILIC-SiのようなベアシリカやRaptor Fluorophenyl のような極性基が結合された極性の固定相を使用する分離モードです。HILICモードで使用する移動相は、水やメタノール、アセトニトリルなど逆相モードで使用する移動相と同じです。さらに、揮発性緩衝塩や添加剤なども使用されます。HILICモードでは極性の固定相を用いるため、C8やC18といった逆相モードの固定相では保持が弱かったり、保持されないような極性分子の分析に適しています。

HILICモードは逆逆相モードと呼ばれる場合もあります。これは、水が溶出力の弱い溶媒である逆相とは反対に、HILICモードでは水が溶出力の強い溶媒となるからです(図1)。HILICにおける分離は、初期条件は有機溶媒濃度が高く(一般に60%以上)、シリカ表面に吸着した水層が存在します。この水層の存在は、シリカ表面に近いほど水の密度が高くなるため、移動相内における勾配(グラジエント)とも呼ばれます。極性化合物は水に溶けやすいため、極性の固定相表面との間に相互作用が働き、水素結合や双極子‐双極子およびイオン交換などで保持されます。例えば、Raptor HILIC-Siカラムは 、他のHILICタイプの固定相と比べて選択性や保持力を示しやすいイオン交換と分配の優れた組み合わせを特徴とします。

図1: 極性化合物の保持が必要な場合にはHILICモードが有用です。逆相モードでは有機溶媒が溶出力の強い溶媒であるのとは反対に、HILICモードでは水が溶出力の強い溶媒となります。

Use HILIC when greater retention of polar analytes is needed

保持時間の再現性に不可欠なカラムコンディショニングと平衡化
HILICモードで良好な結果を得るための第一歩は、カラム使用前の適切なコンディショニングと分析毎の十分な平衡化時間です。コンディショニングと分析毎の平衡化が不適切な場合、充填剤粒子表面に完全な水層が再構築されず、保持時間の再現性が悪くなる可能性があります。

使用前にカラムをコンディショニングする際は、分析条件の移動相でフラッシュする必要があります。イソクラティック分析の場合、少なくともカラム容量の50倍移動相を流します。グラジエントのHILIC条件の場合、少なくとも10回のブランク注入によるフルグラジエント分析によってコンディショニングをおこなう必要があります。コンディショニングは、移動相の組成や添加剤の濃度を変更する場合にも必要です。使用前のコンディショニングと同じ量の移動相を流してください。

使用する移動相を用いたカラムの初期コンディショニングに加え、分析毎の平衡化も重要です。HILICモードにおける分離機構は、固定相粒子表面への水層の吸着により生じます。保持時間の再現性を良くするためには、分析毎に水層の状態が常に同じ状態になっている必要があります。グラジエントを初期条件に戻す場合には最低でもカラム容量の10倍、イソクラティック条件の場合でも、最後のピークの溶出後、少なくともカラム容量の10倍量の移動相を流して平衡化することが推奨されます。完全な平衡化に必要な容量は、特にイソクラティック条件では、分析種に依存する傾向が非常に高い場合があります。このため、HILICモードでの分析条件を検討する際は保持時間の再現性を確認してください。

表1にRaptor HILIC-Siカラムのカラム容量一覧を示します。コンディショニングの際は、イソクラティック条件では少なくともカラム容量の50倍量の移動相を流してください。コンディショニングにかかる時間は、カラム容量の50倍量を流量で割って算出できます。また、平衡化の場合は少なくともカラム容量の10倍量の移動相を流してください。平衡化にかかる時間は少なくとも、カラム容量の10倍量を流量で割った時間になります。

表1: Raptor HILIC-Siカラムのカラム容量(mL)一覧

Column Length

Column ID

30 mm

50 mm

100 mm

150 mm

2.1 mm

0.05

0.1

0.2

0.3

3.0 mm

0.2

0.4

0.5

4.6 mm

0.4

0.8

1.2


例えば、100mm x 2.1mmのカラムを使用する場合、カラム容量は0.2mLです。流量0.3mL/minでイソクラティック分析をおこなった場合、カラムは少なくとも10mL(50 x 0.2 =10mL)でコンディショニングする必要があります。コンディショニングにかかる時間は、33分(10 ÷ 0.3)程度になります。同様に、分析毎の平衡化には2mL(10 x 0.2)必要となり、平衡化時間は7分(2 ÷0.3)程度かかります。これらの計算は分析条件の出発点を決めることはできますが、平衡化時間は分析種に依存するため、再現性を得られるのに必要な平衡化時間の確認が必要です。

良好なピーク形状を得るための試料溶媒
逆相分離でも、カラムの移動相と大きく異なる試料溶媒を注入した場合、ピーク形状が大きく変わることがあります。HILICモードでも同じです。従って、試料溶媒は初期移動相とできる限り同じ組成にすることが重要です。サンプル前処理にSPEを使用している場合は有機溶媒で抽出しているため、サンプル抽出液をそのまま注入できる場合もあります。図2は試料溶媒がピーク形状に与える影響を示しています。試料が100%水溶液で調整されている場合、ジクワットのピーク形状が悪く、化合物の溶出は両方とも早くなっています。さらに移動相B (75%アセトニトリル)に溶解させた試料に比べて、ピーク高さは低くなっています。初期移動相に合わせた試料溶媒を用いることでピーク形状は良くなり、適切に保持され、感度も向上します。

図2: 注入時試料溶媒と移動相の適合性

PeaksPrecursor Ion 1Product Ion 1Precursor Ion 2Product Ion 2
1.Diquat183.3157.2183.3130.1
2.Paraquat185.3170.3171.377.2
Diluent Effects:  Paraquat and Diquat on Raptor HILIC-Si
LC_FS0517
ColumnRaptor HILIC-Si (cat.# 9310A52)
Dimensions:50 mm x 2.1 mm ID
Particle Size:2.7 µm
Pore Size:90 Å
Temp.:45 °C
SampleParaquat & diquat calibration mix (cat.# 32437)
Conc.:50 ng/mL (cat.# 32437 diluted to 50 ng/mL)
Inj. Vol.:5 µL
Mobile Phase
A:Water, 50 mM ammonium formate, 0.5% formic acid
B:25:75 Water:acetonitrile, 50 mM ammonium formate, 0.5% formic acid
Time (min)Flow (mL/min)%A%B
0.000.60100
4.000.63565
4.010.60100
7.000.60100
DetectorMS/MS
Ion Mode:ESI+
Mode:MRM
InstrumentHPLC

移動相pH
注入溶媒と移動相の適合性に加え、移動相pHも分離性能に影響を与えます。実際、分析種の電荷状態に対するpHの影響は、その化合物のpKaによって変わるため、メソッド開発および評価には欠かすことのできない項目です。HILICモードでは移動相中の有機溶媒濃度が高いためpHは高くなる傾向があります。実際の移動相pHは、水溶液中よりも1~1.5程度高くなる場合もあります。カラム自体の電荷状態が影響を受ける可能性があります。例えば、Raptor HILIC-SiカラムではベアシリカのpKa が3.8 ~4.5であるため、移動相pHはシリカ表面の電荷を変化させ、酸性が非常に強い場合には中性状態に、pHが3.8以上なると共にイオン化(負電荷)します。このため一つ以上のプロトン化アミンや第4級アンモニウム基を有する分析種には、Raptor HILIC-Siカラムが適しています。

緩衝塩の選択が分離性能と装置性能に与える影響
緩衝塩は移動相pHを一定に保ち、分析種を夾雑物から分離するのに役立ちます。多くのHILICモードでは検出器に質量分析計が使用されるため、ギ酸アンモニウムや酢酸アンモニウムなどの揮発性緩衝塩が一般的に使用されます。HILICモードにおける緩衝塩濃度は次の2つの理由により考慮が必要です。まず、移動相の有機溶媒濃度が高いため、オートサンプラからカラムへの配管やカラムフリット、もしくはカラム自体で緩衝塩が析出する可能性があります。これにより、システムはメンテナンスが必要となり、装置のダウンタイムが増えます。続いての問題はRaptor HILIC-Siカラムでの保持機構に関連します。一般的なHILIC移動相条件ではシリカ表面は負電荷を有するため、正電荷をもつバッファーイオンは分析種と競合します。緩衝塩濃度が高い場合、分析種の保持を弱めることができます。pHと同様に、メソッドの最適化が必要ですが、10mM程度が検討のスタートポイントになります。グラジエント溶出中も質量分析計で安定した感度を得るためには、AとBと両方の移動相に等量の緩衝塩を加えておく必要があります。ご使用中の質量分析計の最大緩衝塩濃度については、装置メーカーへお問い合わせください。

まとめ
どんなに新しい技術でも、アプリケーションを成功に導くためには、新しいアプローチとこれまでの手法の違いを理解することが大切です。HILICモードは極性化合物に対する有効な分離手法ですが、逆相モードと同じように考えてしまうとうまくいかない場合があります。HILICモードでは、カラムが適切にコンディショニングされていること(新品の場合でも移動相や添加剤が変更された場合でも)と、分析毎の平衡化が適切におこなわれること、注入溶媒を移動相に合わせること、さらには移動相pHや緩衝塩の選択が分析に与える影響に対する理解が良い結果を得るための重要なステップとなります。ここで紹介したガイドラインはHILICメソッドを確立するための出発点となりますが、目的の分析種に最適なパフォーマンスを確保するためにはメソッド開発が不可欠です。

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